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Bitter Sweet Chocolate -Valentine Stories 2008 -

 

 僕には、とってもモテる、兄がいる。


 「ただいまぁ」
 帰ったら、玄関がスニーカーだらけになっていて、思わずギョッとした。
 「あら、お帰り」
 今日は休みで家にいた母さんが、顔を覗かせたる。思わず目で玄関の惨状の意味を問うと、母さんは苦笑し、廊下の奥を親指で示した。
 「なんだか、いっぱい来てるのよ」
 廊下の奥―――その突き当たりは、僕らの部屋だ。
 「…えっと、友達?」
 「さあ? でも、全員女の子よ」
 「えぇ? な、なんでまた…」
 「ほら、今日は14日でしょ」
 ああ。
 なるほど。凄く納得。
 納得すると同時に、僕らの部屋のドアがガチャリと開け放たれ、中からゾロゾロと人が出て来た。数えてみたら、計5人。全員、うちの中学の制服を着た女の子だが、僕のクラスの子はいない。全員知らない子だ。
 「お邪魔しましたぁー」
 女の子たちは、母さんの顔を見て、ニコニコとお辞儀をして挨拶をした。そして、僕もいるのに気づき、5人同時に「あっ」というような顔になった。
 「お邪魔しました」
 一番先頭にいた子が、代表するような形でそう言って、にこっと笑う。
 正直なところ、僕はあまり、女の子に免疫がない。そもそも友達自体多くないし、ましてや女の子の友達なんて皆無だ。
 「ど、どうも…」
 どう反応していいやらわからず、結局、曖昧な返事をして、軽く頭を下げる位のことしかできない。そんな僕を見て、彼女たちは一瞬楽しそうに笑い、次々に靴を履いて帰って行った。
 …それにしても、いくら今日がバレンタインデーだからって、あんな風にグループで訪ねて来るって、どういうことなんだろう? 一応、日本では「女の子が好きな子に告白する日」の筈なのに……集団で告白? なんかそれも変だなぁ…。
 「鍵、閉めといてね」
 「あ…、うん」
 母さんに耳元で小声で言われ、僕は、最後の女の子が出て行ったドアが閉まるのを待って、玄関に駆け寄った。
 すると、新聞受けから入り込む冷気にぶるっと身を震わせた僕の耳に、ドア越しに、外の女の子たちの声が僅かに聞こえた。

 「今のって、弟さんだっけ」
 「えー、お兄さんだったかな」
 「えっと、弟だって聞いた。友達が同じクラスだから」
 「時々見かけたことあるけど、間近で見ると、凄くそっくりー」
 「似てるけど、随分感じ違うよね。不思議」

 「―――…」
 …なんでなのかは、僕自身が聞きたいよ。
 同じ日、同じ時間、同じ親から生まれたのに―――なんで僕らは、こんなに違うんだろう、って。
 自分でも密かに思っていることを、見ず知らずの人の口から聞かされると、結構傷つくものなんだ……と、生まれて初めて知った。らしくもなく、僕はちょっと乱暴に鍵を回した。

***

 「よー、累。遅かったな」
 部屋に行くと、学ランだけ脱いだ格好の奏が、ベッドの上にあぐらをかいて、何かの雑誌を読んでいた。その足元の床には、さっきの子たちの誰かが持ってきたものと思しきカラフルな袋が、無造作に置いてある。
 「…委員会があったんだよ。奏は? 今日って部活ないの?」
 「ないの。顧問の高木が昨日事故ってさー」
 「えっ。高木、って…3年何組だかの担任の?」
 「そ。凍結した道、スクーターでとばして、3車線道路で綺麗にスピンしたらしーぜ。肋骨折る重傷だって。ひとまず今日は部活も休みで、部長と副部長が代表でお見舞いに行ってる」
 「…うわぁ…大変だなぁ」
 この受験真っ只中の時期に担任が事故で入院は、痛いだろうなぁ―――高木先生も気の毒だけど、高木クラスの3年生たちにも、ちょっと同情してしまう。
 「2年は試合近いからピリピリしてっけど、オレたち1年はラッキーって喜んでるよ。今日はバレンタインデーだしさ」
 「……あのさぁ、」
 鞄を床に置くと、僕もベッドの端に腰掛けた。
 「さっきの子たちって、奏にチョコ持ってきたんじゃない?」
 「ん? そーよ」
 それがどうした、という顔の奏は、さっきの光景をちっともヘンだとは思っていないらしい。
 「日本のバレンタインデーって、女の子の告白デーだよね?」
 「うん」
 「…あの子たち、集団で奏に告白しに来たの?」
 恐る恐る訊ねると、奏はキョトンと目を丸くし、続いて盛大に笑った。
 「うはははは、そりゃいくらなんでもないわ」
 「え? じゃあ…???」
 「帰ってきたら、なんか、別々の方向からバラバラ女の子が出てきてさ」
 面白い話でもするかのように、奏は僕の方に少し身を乗り出し、楽しげに説明しだした。
 「出てきたはいいけど、仲間が自分以外に4人もいたもんだから、全員おんなじように目ぇ丸くしてんの。2人は最初から自宅張り込み作戦だったけど、他の3人は、部活帰りを狙う筈が、部活なくなったって聞いて、急遽作戦変えたらしいよ」
 「…普通に、学校で渡す訳にはいかないもんなの?」
 「同じクラスならいいけど、他のクラスだと、呼び出してもらったり、他の奴らがいる前で声かけたりしなきゃいけないから、恥ずかしいんだってさ。可愛いよなぁ」
 「へー…」
 意外、なんて言ったら、失礼に当たりそうなので、やめた。でも…ちょっと意外。どの子も、パッと見た感じが華やかな子で、積極的で自信に満ちてるように見えたのに。
 小学校の頃も、奏の友達や奏にチョコを渡しに来る子は、そういう子が多かった。つまり、奏と同じタイプ―――華があって、社交的で、男女関係なく人気のあるタイプの子だ。僕はそういう様子を傍で眺めながら、うわー凄い、と目を丸くするのが関の山で、ああいうタイプとは全然交流がない。そういうタイプも決して嫌いではないんだけど、見た目で臆してしまうことが多いし、向こうも真面目で内気そうな僕には話しかけ難いらしい。見た目で勝手に判断してたけど―――案外、ああいう子たちも、見た目ほど自信満々でもないのかもしれない。
 「なんか気まずそうにしてるから、とりあえず上がれば、って誘ったら、ああなった訳」
 「…そこが奏のわかんないとこだよなぁ…。全員、奏に告白しに来た、ってことは、ライバル同士だろ? 雰囲気悪かったんじゃない?」
 僕が眉をひそめて言うと、奏はムッとしたように口を尖らせた。
 「そう言うけどなぁー。確かに場が凍り付いてたけど、そんな空気だから余計、その場で1人1人からチョコ受け取るのも変だし、全員追い返すのだって気まずいし。1人だけ選んだりしたら、もっと大変だぞ」
 「う…っ、そ、それは……そう、かも」
 「だろ? みんな喜んでたし、なんかお互い仲良くなってたから、結果オーライ結果オーライ」

 …いいなぁ、奏は。
 こういうことがあるたび、つい、そんな風に奏を羨んでしまう。
 僕は、悪い結果が出ることを恐れて、ついつい無難な選択や消極的な選択をしてしまうことが多い。なのに奏は、結果なんて恐れず、何事にも積極的にドーンとぶつかっていく。で、実際、悪い結果になることより、良い結果や無難な結果に終わることの方がはるかに多い。悪い結果になった時の落ち込み方は凄いけど、いい結果になった時の奏を見ていると、なんだか自分が凄く損をしている気がしてくる。
 こんな風になれたらなぁ、と思うけれど―――やっぱり僕には、奏の真似はできない。
 一度、母さんに相談したけど、母さんもやっぱり、奏の真似をすることはない、と僕に言った。奏を無理に真似したところで、奏のようになれる筈もない。少しはなれても、結局、奏に及ぶほどにはなれない。何故なら、奏がこういう風なのは、それが奏に合ったやり方だから―――そして僕がこういう風なのも、それが僕に合ったやり方だから。「個性」とはそういうものだ……と、母さんは言った。
 多分、そのとおりなんだと思う。時々自己嫌悪に陥るけど、これが僕の個性。そして、時々酷く傷ついて落ち込んでるけど、これが奏の個性だ。

 「…で、結局、あの中の誰のチョコを受け取ったの?」
 奏の足元に置かれた袋に目をやりながら訊ねると、奏はケロッとした顔で、恐ろしいことを言った。
 「え? 全員の分、受け取ったよ?」
 「全員!?」
 「うん。ほら」
 奏が指差した先には、雑誌やらレコードやらで隠れていたけど、確かにチョコらしき物体がいくつか転がっていた。袋の分は、ちょっと包みが大きかったせいで、1つだけ別に置かれていたらしい。
 「な…なんで! なんで全員!?」
 「え、だって、あの中にオレが好きな子、いないし」
 「いないなら、全部断れよっ! 失礼じゃないか!」
 当然のように僕がそう言うと、奏は、不思議な言葉でも聞いたような顔をした。
 「えぇ? せっかくオレのために買ってくれたチョコ、“いらない”って断る方が失礼だろ?」
 「でも、バレンタインは、チョコに自分の気持ちを託すんだから、チョコを受け取る、イコール、気持ちを受け取る、ってことじゃない? 付き合えないけどチョコは貰う、じゃあ…なんか、ずるくない?」
 「…うーん、そういう考えもあるのかなぁ…」
 「るーいー」
 首を傾げた奏の言葉に、母さんの声が被さった。
 ガチャリ、と開いたドアから顔を覗かせた母さんは、僕に向かって一言言った。
 「お客さんよ」
 「お客さん?」
 …誰だろう? 誰かが訪ねて来るような覚えもないけど、とりあえず立ち上がり、玄関に向かった。

 「はい…」
 恐々、僕が声をかけると、玄関内に入っていた人影が、パッとこちらに向き直った。
 「…あ、」
 この人、奏のクラスの子だ。
 名前は知らないけど、見覚えはある。奏と同じ体育委員で、体育祭の時、2人で学ラン姿で応援団やってたから、記憶に残っている。スラリと背の高い女の子で、しかもショートヘアだから、少女漫画に出てくる男の子みたいに、妙に男装が似合ってたっけ―――でも、今日は当然、学校帰りのセーラー服姿だった。
 「ご…ごめんね、突然押しかけて」
 彼女が、焦ったような笑顔でそう言う。でも、何故彼女が奏ではなく僕を訪ねて来たのか、やっぱりわからない。
 「…ええと…奏のクラスの、体育委員の子、だよね」
 「覚えててくれたの?」
 「応援団で見た覚えが…。あ、でも、ごめん。名前は…」
 「田中、です」
 「…田中、さん」
 僕が繰り返すと、彼女はコクリと頷き、それから急に緊張した顔になった。
 「ほ…ほんとは、委員会終わったら、声かけようと思ってたんだけど―――先生に呼び止められちゃって。気づいたら、もう帰っちゃってて」
 「うん…?」
 「失礼かなー、って凄く迷ったけど……やっぱり、今日を逃しちゃったら、後悔すると思うから」
 そう言うと、彼女は一瞬黙り込み、やがて意を決したように、鞄とまとめて持っていた紙袋を、僕に差し出した。
 「これっ」
 「えっ」
 これって。
 白地にピンクと赤のハートをあしらった、小ぶりでおしゃれな紙袋―――これって、どう考えても。
 「う…受け取って、下さいっ」
 「……」
 「お願い、しますっ」
 紙袋を掲げたまま、バッ、と勢いよくお辞儀する彼女を、僕は呆然と見下ろすしかなかった。

 だって、名前すら、今日聞いたばかりだし。
 奏が体育委員じゃなかったら…いや、体育委員でも、秋の体育祭で、応援団姿を見ていなかったら、多分、顔も覚えてなかった可能性が高いし。

 もの凄く、もの凄く、必死なことはわかる。ビシビシ伝わってくる。
 多分奏なら、たとえ初対面の見ず知らずの女の子でも、この必死さだけで「ありがとう」と言って軽く受け取ってみせるんだろう。
 けれど―――僕は、やっぱり、僕だった。


***


 登校するなり、友達に小突かれた。
 「奏ー、お前、昨日ごみ捨てして帰るの忘れただろー」
 「うわ、しまった」
 昨日はオレ、ごみ捨ての当番なんだった。高木の件とバレンタインでバタバタしてるうちに、すっかり忘れてた。
 担任が来る前に捨てておかないと、色々面倒だ。慌てて鞄を置いて、ごみ箱を抱えて焼却炉へと向かった。


 それにしても―――日本のバレンタインは、やっぱりどこか変だ。
 イギリスにいた頃、父さんと母さんがお互いにバラやら口紅やらをプレゼントし合ってるのを見て、バレンタインてのはああいうもんなんだ、と思ってたから、初めて日本のバレンタインを見た時には、もの凄く驚いた。えー、男からは何もナシかよ、ずるくねぇ? って言ったら、逆に友達から不審がられた。プレゼントを渡す立場になることの多い男にとっては、もらう立場になれる貴重なイベント、ってんで、楽しみにしてる奴も多いらしい。オレは貰うよりあげる方が好きだからなぁ、と言ったら、「確実に貰えるお前が言うと、ただのイヤミだ」って言われたので、もうバレンタインには口出ししないことにしたけど。
 昨日、オレにチョコくれた子たちも、大半がオレの知らない子だった。まあ、オレも、ほとんど知らない子を見た目や評判で好きになったことあるから、あの子たちをどうこう言えたもんじゃないけど……柄にもなく、ちょっと、悩む。
 好きになってくれるのは、単純に、嬉しい。でも…なんかオレは、お手軽にホイホイ好かれ過ぎな気もする。あんまり中身を見てもらえてないっていうか―――あまりに簡単に「好き」なんて言ってくれるもんだから、オレって単に言いやすいだけなんじゃないか、って気がする。
 累は、毎年チョコを結構な量貰ってくるオレを見て、「羨ましい」と言う。あいつの方が甘いもん好きだし、なんだかんだ言っても「モテる」方が「モテない」よりはいい、と思ってるらしい。
 でも、オレは、累の方が羨ましい。
 累は、別に「モテない」訳じゃない。ただ、累に告白する子が、あんまりいないだけで。オレのクラスにも累のファンはいるし、密かに累に想いを寄せてる上級生、なんてのもいたりする(オレの友達の姉貴の親友だ)。なのに、累が、凄く真面目で、いかにも女の子が苦手そうで、義務教育のうちから色恋沙汰にうつつを抜かすなんて、と眉をひそめそうに見えるから、尻込みしている場合がほとんどだ。
 ちょっと好きな程度でも「好き」と言ってもらえるオレと、もの凄くためらった末に、やっと「好き」と言ってもらえる累。それって―――同じ「好き」でも、なんか、3倍位の重みの差があるような気がする。
 どうせ「好き」と言ってもらうなら、3倍の重さのある「好き」を望むオレは……友達に言わせると、ただのゼータク者、らしい。


 「えー、断られちゃったんだ」
 ぼんやり昨日のことを考えていたオレは、ドアの外から聞こえた声に、思わず、ドアノブを握ろうとした手を止めた。
 この声は、オレのクラスの女の子の声。今日というタイミングでこのセリフ、ってことは…当然、昨日の告白の結果のことを言っているんだろう。
 うわ、誰の話だろう? 焼却炉はドア開けてすぐのとこにあるけど、とてもじゃないけどタイミング悪すぎだ。しかも、クラスメイトだなんて―――無意識に息をつめるオレの耳に、微かに泣き声が届いた。ますます、出て行ける状態じゃない。
 「うそー。あたし、絵里子なら絶対いけると思ったのにー」
 また別の声が口にした名前に、ドキン、と心臓が跳ねる。
 絵里子―――絵里子って、もしかして。
 「…ううん、多分ダメだろうな、って、自分でも思ってたから…」

 涙で掠れた声は―――間違いなく、田中さんのものだった。
 途端、昨日、部屋のドアに耳をくっつけて玄関の様子を窺っていた自分を思い出して、一気に気分が落ち込んだ。
 本当に、昨日は最悪だった。よりによって、片想い中の相手の告白場面に出くわすなんて―――しかもその相手が、オレと同じ顔した、累だなんて。結局、累は断ったけど、とてもじゃないけど喜べなかった。オレが女だったら、あんなに申し訳なさそうに、しかも誠心誠意で頭下げられたら、ますます累に惚れると思う。チクショー、神様はどんだけ意地悪なんだよ。

 「でも、チョコも受け取らないなんて、見かけによらず酷いよねー。同じ一宮君でも、うちの一宮君ならそんなことしないよ」
 「やだ、そんなこと言わないでよっ」
 友達の言葉に、田中さんが即座に反論する。
 「バレンタインチョコは告白の気持ちだから、付き合うつもりもないのにチョコだけ受け取るなんてできない、って言ってた。自分も好きだって思ってた人からのチョコしか受け取らないことにしてるから、ごめんね、って―――誠実なんだよ」
 「誠実、ねぇ」
 「悲しかったけど、嬉しかったよ。正直に言ってもらえて」
 田中さんがそう言うと、周囲の友人らは、それぞれな反応を見せた。
 「…そりゃ、言ってることはわかるけどぉ…」
 「でも、ごめんね、より、ありがとう、が欲しいなぁ、あたしなら。付き合うことはできないけど、気持ちは嬉しいよ、って言ってもらえた方がさぁ」
 「あ、でも、私も絵里子の気持ち、ちょっとわかる。おんなじセリフみんなに言ってチョコをほいほい受け取ってる男見ると、調子いいなー、って思うこともあるもん。本命とそうじゃない女をきっちり分けるのは、誠実だよね」
 「でもそれって、本命には優しいけど、他の女の子の気持ちは思いやってない、ってことじゃない? なんだかなぁ」
 「そもそも義理チョコの存在もおかしいよね」

 あああ、もう、結論はどうでもいいから、早くどっか行ってくれ。
 ごみ箱抱えたまんま閉じ込められてる奴がここにいるって、1人でも気づいてくれよ。頼むから。

 というオレの心の叫びが届いたのか、田中さんが、
 「やだ、ここ、ドアの前じゃない。誰か来たらまずいよ」
 と小声で言ってくれた。「ほんとだね」と言い合った彼女らは、どこかへ移動し始めた。やっと出られる―――ホッと胸をなでおろすオレに、けれども神様は、やっぱり無慈悲だった。

 「エリちゃん、いっそのこと、うちのクラスの一宮君にしたら? おんなじ顔だよ?」
 「…やめてよ。顔は同じでも、中身は正反対じゃない。そりゃ一宮君のことは好きだけど、やっぱり友達としか思えないよ」

 ―――…ぐっさり。
 これぞ、とどめの一撃。ごみ箱を落とさなかったのは、奇跡だ。


 どれだけたくさんの女の子から、どれだけたくさんのチョコを貰えたとしても、本当に好きな子から貰えないんじゃ、意味がない。
 たった1人、たった1個、好きな子から貰えれば、それでいいのに。


 やっぱり、バレンタインなんて嫌いだ―――と後で友達に言ったら、「お前が言うな」と全力でぶん殴られた。


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