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   ビタミン  


 あんた疲れてるんじゃないの、と、台所で隣に立つ母に言われた。
 そんなことないよ、と、奈々美は答えた。
 実際、帰省中は掃除・洗濯は母の担当だし、炊事も手伝う程度。疲れる要素など微塵もないのだ。
 「ほら、また」
 「え」
 母が、菜箸で奈々美の鼻のあたりを指す。
 「ため息。幸せが逃げてくって昔言われなかった?」
 「ため息なんてついてないよ。うちの台所狭いから、息苦しいだけだって」
 「やっぱり疲れてるんじゃない? 滅多に帰省しないからって、連日、お友達に会いに出てるじゃない。あんた、人付き合い苦手だから、珍しいことすると疲れるのよ」
 「うーん、それはあるかも」
 でも、本当は分かっている。ため息の理由。
 奈々美は、和臣の待つ家に帰るのが、怖いのだ。

***

 「私ってカズくんのなんなんだろう、って、最近思うんだよね」
 2週間ほど前、奈々美は、佳那子を相手にそう呟いていた。
 「なんなんだろう、って…神崎の奥さんに決まってるじゃない」
 「そりゃそうなんだけどさ」
 「なに、そんなに神崎、ナナに冷たいわけ?」
 「ううん、カズくんは優しいよ。付き合ってた頃より、むしろ優しい位。脚立から落ちたら大変だからって、蛍光灯の取り替えから戸袋の掃除まで全部やってくれるし」
 「それはナナがチビだからでしょ」
 「うるさい。…それに、土日も極力家にいてくれるしね。結婚前なんて、2人きりでデートなんて数える位しかしてなかったけど、結婚してからはあちこち連れてってくれるよ」
 「傍目にも恥ずかしくなる程の猛烈アタックでゲットした奥さんだからね、ナナは。神崎ってば、相変わらずの大甘なわけね」
 佳那子が冷やかすように眉を上げる。が、奈々美はやっぱりため息をつく。
 「ねぇ、この間カズくん、半月位長野に出張に行ったでしょ」
 「ええと…ああ、あったわね。経費節減で、独身寮を宿にさせた、って久保田が言ってたわ。久保田の部下だなんて不憫なやつ」
 隣の課でいつも遅くまで仕事している和臣の姿が、先月の下旬あたりからしばらく全く見当たらなかったのを、佳那子は思い出した。久保田というのは和臣の課の係長で、佳那子や奈々美と同期である。3つ年下の和臣を弟のように可愛がっているのだが、その可愛がり方は少々スパルタ気味である。おかげで和臣は、結婚式の翌日であるにもかかわらず午前様帰宅、という悲しい経験をしている。結婚してから1年ほど経つが、奈々美が和臣と一緒に夕食をとれた平日は、数える程しかない。
 「私さ、2週間も1人きりで、しかも周囲に碌な食べ物屋さんもない独身寮に放り込まれて、カズくん栄養失調になるんじゃないか、って心配したのよ。結婚前が前だけにさ」
 和臣は、折り紙つきの偏食である。野菜が嫌いな上に魚が嫌い。元々痩せすぎであることも手伝って、この飽食の世にあって、独身時代に栄養不良で倒れた経験を持っている。暴飲暴食が祟って十二指腸潰瘍も経験した。
 「あれは、私たちが飲みに連れまわしたせいもあるでしょ…久保田につきあってりゃ、誰だって1回は倒れるわよ。私も胃に穴あいたし、あんたは毎回吐くし…まぁ、飲めないあんたに飲ませてたのは神崎だから、同情はしないけど」
 「まぁね。とにかく、独身時代のカズくん知ってるだけに、心配だったのよ。でもね」
 と、ここでまた奈々美はため息をついた。
 「全然平気だったの。コンビニ弁当食べてたんだって。なんかいつもより体調いいみたい、なんて言われちゃった」
 独身男性が増えたせいか、ヘルシー志向の人が増えたせいか、最近のコンビニ弁当の中には、きちんとカロリー計算や栄養バランスが考えられた「ヘルシー弁当」なるものが存在しているそうだ。長野での2週間、和臣はそうした「ヘルシー弁当」に500ミリリットルの「おーい、お茶」、というメニューで過ごしたのだという。
 結婚してから、奈々美は、栄養バランスには人一倍気を配って食事を作っていた。和臣も「奈々美さんの作るものだから」と言って、嫌いな野菜や魚も笑顔で平らげるようになった。姉さん女房であることを密かにコンプレックスとしていた奈々美は、結婚後10キロ太って健康体になった和臣を見て「やっぱり私がいなきゃダメよね」と一人満足していたのだ。
 その自信が、コンビニの「ヘルシー弁当」580円で崩壊した。
 「私、会社人間だったから、会社の人間位しか友達もいないし、寿退社してからはずっと家にいるだけでしょ? 特に熱中するような趣味もないし、カズくんは遅いし。だから、結婚して半年位たった所で、私の存在意義は“カズくんのマネージャー”だ、って思ったの」
 「うん、まぁ、奥さんってのは、一種のマネージャーだわね」
 「カズくん、ズボラだから、私がいないとダメなんだ、って、勝手に思い込んでたの。ビタミンBが何かなんて知らないし、ほっとけば洗濯も1週間溜め込むし、掃除だって言われなければ一生しないだろうし、って」
 実際、独身時代の和臣の部屋は、たまに仲間で押しかけると、洗濯物の山の周囲をコンビニのビニール袋が取り囲んでいる状態だった。冷蔵庫の中には、ビールしか入ってなかったし。
 「なのに…今のカズくん、健康を考えてヘルシー弁当買っちゃう人なんだよ? 出張の時もね、心配だから長野の独身寮に1回行ったんだけど、日曜日の午前中だってのに、カズくんてばお布団干してるのよ! 信じられる!?」
 「…変わったね、神崎」
 「そうよ! ゴミに囲まれたカズくん想像して、はりきって掃除洗濯しに行った私の立場はどうなるのよ!」
 結局奈々美は、和臣に信州そばを持たされ、遅くなると危ないから、と早めの電車で帰らされてしまったのだった。
 翌週、和臣は、元気に帰宅した。そしてニコニコ笑いながら「あ〜、オレ、今回自信もったよ。これなら奈々美さんが帰省しても全然OK。ちゃんと生きてけるから、奈々美さん、思う存分羽根のばしてきてよ」とのたまったのである。
 和臣は奈々美なしでも十分生きていけるのだ。奈々美はその事実を目前にして、かすかに残っていた自信を全部失った。
 「私って…なんのためにカズくんの家にいるんだろう。考えてみたら、食事作って掃除洗濯こなしてワイシャツにアイロンかけて、なんて仕事、家政婦雇えば事足りるんだよね。そりゃ、サラリーマンの給料で家政婦なんて雇えないけど、でもそれなら、所詮専業主婦なんて家政婦代の節約に過ぎない気がして」
 「そ、それは、いくらなんでも世の専業主婦に対して失礼でしょ」
 佳那子は苦笑する。とはいえ、30を目前に控えながらも、バリバリと男顔負けに仕事をしている佳那子が、奈々美に“専業主婦の存在意義”を説くだけの説得力を持ち合わせている筈もなかった。佳那子もそれが分かっているので、それ以上の慰めの言葉はかけられなかった。
 「先週、大塚さんと偶然会ったんで、ちらっとそんな話をしたのね」
 と、奈々美は更に続ける。大塚さんとは、奈々美たちの1つ先輩で、やはり寿退社した女性だ。といっても、 退社したのははるか昔の話で、今や男女3人の子供を抱える立派なお母さんだ。
 「そしたら言うのよ。“子供作ったら? そうすりゃぜーんぶ問題解決でしょ”って。でも、それってなんかヘンじゃない? 専業主婦は、子供がいなかったら存在意義なんてないの? 私一人じゃ、カズくんの家にいる理由なんてゼロなの?」
 「そんなことないわよ」
 佳那子は即答した。本能的に、それは違う、と感じる。会社でたまに奈々美が話題にのぼった時の、和臣のあのフニャッとした緩んだ笑顔。奈々美はやはり、和臣にとって必要な人間だ。でも、それを、他人である自分が説明するのは難しい。
 難しいが、とにかく慰める佳那子であった。
 「そんなに自信なくしてるんならさぁ、いっそ、どーんと1ヶ月位留守にしてみれば? あいつ、絶対もたないから。長野は2週間だから耐えられたんだって。帰ったらゴミの山が待ってるかもしれないけど…それでナナは安心できるでしょ? ね?」
 納得のいく説明が出来ないから、結局“和臣に家事は無理”でしか慰めることが出来なかったのだが、奈々美はため息つきつつも「そうねぇ」と言った。多少元気になったように見えて、佳那子は少しだけホッとしたのだった。

***

 そして奈々美は、その佳那子の提案を真に受けた。
 友人の結婚式に出席するのを機に、帰省したのだ。しかも、期間を和臣に告げずに。
 結婚後初めての帰省に、和臣は全く反対しなかった。「ゆっくりしておいで」と笑顔で送り出した。奈々美には、その笑顔すら「キミがいなくても大丈夫だよ」というふうにしか見えなかった。
 和臣は相変わらず帰宅が遅く、奈々美の両親や弟が寝静まった頃でないと帰ってこない。奈々美の実家はマンションなので、携帯電話は電波が届かない。連絡するなら、実家の電話にかけるしかない訳だ。家族の眠ってる時間にかけるわけにもいかず、必然的に、帰省中の奈々美と和臣の連絡は、朝のわずかな時間の電話だけになった。
 慌しい電話の中に、奈々美は注意深く「早く帰ってきて欲しい」という和臣の本音を探したが、靴下どこだっけ、ハンカチどこだっけ、という言葉の中に、そういったものを見つけることは出来なかった。「ちゃんと食べてるの?」と尋ねたところ「ローソンの行楽弁当、低カロリーなくせに美味いよ」と言われた。近所のコンビニだったので、奈々美も買ってきて母と一緒にお昼に食べた。なんだか、自分の作ったお弁当よりもおいしくて、奈々美はますます自信を失った。
 高校時代の同級生に会ったり、弟の彼女を紹介されて騒いだりしてるうちに、10日過ぎた。
 長野で見た、塵ひとつなく箒で掃かれた6畳間と甲羅干しされた布団を思い出し、奈々美はまたため息をつく。今帰っても、出てきた時とほとんど変わらない我が家が待っているだけのような気がして、帰るのが怖かった。
 「またぁ。あんた、ほんとに幸せが逃げるわよ」
 里芋の煮っ転がしを頬張りながら、母が言う。母の隣に座る父が「なんだ、そりゃ」と笑ったが、奈々美はうまく笑えなかった。
 食卓に並んだビタミンもミネラルもたんぱく質も豊富な食事はどれもおいしいのに、いくら食べても元気にならない気がする。
 食後に体重計に乗ってみたら、帰省してからの10日間で、何故か体重が2キロ減っていた。

***

 その電話は、奈々美が体重計を降りた直後にかかってきた。
 時計を見ると夜の8時。弟かな、と思い、たまたま一番電話の近くにいた奈々美が受話器を取った。
 「はい、―――木下です」
 神崎です、と日頃の癖で言いそうになって、一瞬つっかかる。直後に受話器から聞こえたのは、意外な人の声だった。
 『あ、わたくし、奈々美さんの友人で久保田と申しますが…』
 「えっ、久保田君? 私、奈々美。どうしたの突然」
 『あああ、木下! 大変だ、カズが倒れた』
 心臓を、氷でできたナイフで貫かれたような気がした。受話器を落としそうになったが、なんとか耐える。
 「た、倒れたって…今、どこにいるの!? どんな具合なの!?」
 『本人は大丈夫って言ってるけど、顔色最悪だし、とにかく家まで送ることにした。佐々木も一緒に行くから、木下、早く戻ってこいよ』
 「分かった。今からなら最終の新幹線間に合うから、すぐ戻る。佳那子にもそう伝えといて」
 氷で刺されたような痛みが少し引くと、続いてバクバクと心臓が暴れ出す。嫌な想像ばかりが頭の中をグルグル回りだす。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら、奈々美は両親に事情を説明し、荷物を手早くまとめて、駅へと急いだ。

***

 10日ぶりの自宅は、荒れていた。
 物をいろいろ探したのだろう、引き出しが中途半端に開いたタンス。リビングの床に脱ぎ捨てられているパジャマ。ゴミの分別が分からなかったらしく、食卓の上には空になったペットボトルが並べられていた。
 「ナナ、良かった、今日中に帰ってきてくれて」
 ソファに座っていた佳那子が、ほっとしたように笑顔を見せた。隣の久保田も反射的に立ち上がった。
 「佳那子も久保田君もゴメンね。カズくん、どんな具合なの?」
 「今、寝室で寝てる。カズ、ここ数日顔色悪くてさ。俺たちもちゃんと食ってるかどうかは気にしてたんだけど…食ってはいるのに、どんどん元気なくなってくし、なんか悪い病気じゃないかと心配してたんだよ。で、今日はもう早く帰って休め、って言ったんだが」
 「目回して倒れちゃったのよね、神崎のやつ」
 コンビニの行楽弁当では、やはり無理だったんだろうか。
 「…でも、なんか、ナナもやつれてるよね…」
 佳那子が眉をひそめる。たかが2キロ痩せただけの筈だが、なんだか頬がこけてげっそりと見える。丸顔なだけに、頬がこけた時のやつれ方は顕著だった。
 「うん…なんか私も、日頃よりちゃんと食べてるくせに、力が出なくって」
 「おいおい、よせよ、夫婦揃って病気かよ」
 「なっ、奈々美さんっ!?」
 久保田の呆れた声を掻き消す勢いで、寝室から大声が聞こえた。びっくりして3人が振り返ると、パジャマ姿の和臣がフラフラとリビングに出てきていた。
 「カズくん!」
 奈々美はショックを受けた。
 やつれてる。これは半端じゃなくやつれてる。自分の顔も精彩が無いと鏡を見て思ったが、和臣の場合は瀕死の重症にしか見えない。本当に行楽弁当を食べてたんだろうか、と疑いたくもなる。
 「よ…良かった…奈々美さん帰ってきてくれたんだ…オレ、死ぬかと思った」
 独身時代、事務や営業補佐の若手女子社員をキャーキャー言わせてた麗しの顔を涙でクシャクシャに歪めつつも、和臣は嬉しそうに笑っていた。
 「どうしたのよ、ちゃんと食べてるし寝てるって言ってたじゃない。ローソンの行楽弁当は嘘だったの?」
 「違う。食べてたんだけど、さっぱり栄養にならないみたいなんだ」
 「栄養にならない?」
 「うん。なんかさ…会社行ってても“あぁ、帰っても奈々美さんのお出迎えは無いんだよなぁ”と思うと、帰るのイヤになるしさ。声位聞ければ多少元気になるかな、と思うけど、電話できる時間になんて帰れなかったし。長野ん時は毎晩30分は話してたじゃない。携帯片手に食べたヘルシー弁当は、結構うまかったんだよ。でもなぁ…朝起きても一人、帰ってきても一人、暗い部屋に帰るの空しいから、家中の電気つけっぱなしで朝出るんだけど、“ただいまー”って言ってもシーンとしてる明るい家、ってのは余計空しくて1日で止めたんだ。5日は頑張った。でも、6日目からは、仕事しててもぼーっとする事が多くなって、久保田さんに何回も頭はたかれたし」
 失礼な、3回しかはたいてないぞ、という久保田の声は、和臣にも奈々美にも届かなかったらしい。佳那子1人、それを耳にしてクスリと笑った。
 「―――とにかくもう、毎日毎日、オレ何のために生きてるんだろう、いつ奈々美さん家に戻ってくるんだろう、って、そればっかりで…今日、早く帰っていいぞ、って言われて…家についてから朝出勤するまでの11時間、オレ1人でこの家で何すればいいんだ、って思ったら、気が遠くなっちゃって」
 「…で、目を回して、倒れちゃったわけ?」
 「うん」
 奈々美は頭がクラクラしてきた。自分の方が、目を回して倒れそうだ。
 「ごめんね、奈々美さん。ずっと帰省もさせてあげられなかったから、オレ、我侭言っちゃいけないって思ってたんだけど…奈々美さんに心配かけたくないから魚も野菜も食べられるようになったけど…ビタミンもミネラルも足りてても、奈々美さんが家にいないと、オレ倒れるみたい。オレにとっては奈々美さんが、ビタミンなのかも」
 「…そっかぁ」
 なんだか、おかしくて、笑えてきてしまう。

 なんだ、そっか。
 “ここにいること”が、私の存在意義なんだ。

 家事なんて関係ない、子供も関係ない、仕事も関係ない。カズくんを行ってらっしゃいと送り出し、お帰りなさいと迎え入れるのが、私の存在意義。私の笑顔が、カズくんの生きるための糧になるんだ。
 今ならすんなり、それがわかる。
 だって、私もそうだから。カズくんのいない10日間、私も“カズくん不足”で倒れそうだった。カズくんは、私の命の糧だ。

 「私はカズくんのビタミンで、カズくんも私のビタミンなんだね」
 「うん、そう…ねぇ、奈々美さん」
 和臣は、ようやくおさまった涙をパジャマの袖で拭い去り、にっこり笑った。
 「なんか、ホッとしたら、お腹すいた。なんか食べよ?」

***

 「―――10日間、ほっといたらバナナ1本食わなかったくせに…現金なやつ」
 「まぁ、いいじゃない。2人とも元気になったんだし」
 納得がいかないのか、ハンドルを握る久保田の手は、怒りで小刻みに震えている。
 「でもなぁ。いくら腹減ったからって、この時間にハンバーグディナーにミルフィーユまで食うか!? 普通! ファミレスの定番ったって、深夜0時だぞ! カズがおかしいのは今に始まったこっちゃないが、木下まで巨大パフェ食うとはどーゆーことだ!」
 「久保田は単に、あの2人にあてられたから頭来てるだけでしょ。私たち巻き込んで大騒ぎした結果が“お互いがお互いのビタミン”だもん…結婚前から、喧嘩しては久保田や私を巻き込んで、最後には必ずラブラブモード突入だったよね」
 佳那子は愉快そうに笑う。
 「全くあいつらは…もう絶対、面倒なんて見てやらないからな! 俺は! お前ももうあの2人には構うな! 構うだけバカを見るぞ!」
 「はいはい」
 そう相槌をうちつつも、久保田は結局ぶつくさ言いながらまたあの2人の面倒を見てしまうのだろう、と、佳那子には想像がついていた。自分もそうだからだ。
 「でも…“ビタミン”かぁ…そんなもんかもなぁ、夫婦とか恋人ってのは」
 ポツリ、と、久保田が呟いた。
 「うん、言いえて妙よね、その表現。愛する人の笑顔見ると、生きる活力になるもの」
 「…いくら言いえて妙でも、カズが幸せボケしてることに変わりはないけどな」
 「あはは、後輩をあんまりいじめなさんなよ」
 「あーあ、疲れた疲れた。―――会社に車置いたら、パーッと飲みに行くかぁ。佐々木もつきあうだろ?」
 久保田はそういって、一瞬だけ佳那子に笑顔を見せた。

 
―――“愛する人の笑顔は、生きる活力になる”。


 佳那子も、OKの意味を込めて、ニッコリと微笑んでみせた。


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