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 「そら」まで何マイル、最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

 この作品は、前作「Step Beat」のプロットを練っている途中で、ふと派生的に出来上がった物語です。
 「Step Beat」においてはその存在があまり目立たない故人・飯島多恵子について、久保田や佳那子、瑞樹の設定を練ってるうちに、どんどんストーリーが膨らんでいってしまって―――気づけば、1つの中編になってました。その位、飯島多恵子の存在感は、結城の中では鮮烈で、センセーショナルだったんです。
 「Step Beat」の連載が終了した時、読者の皆さんの要望もあり、そのまま「Step Beat × Risky」(Step Beatの続編)へとなだれ込もうかな、とほぼ決めていたんですが、駄目でした。結城の中に生まれた多恵子が、「外に出せー、外に出せー」と騒ぎまくるので、出してやらないと、結城がおかしくなってしまいそうでした(笑)

 正直、この話を書くのは、相当勇気が要りました。
 初のR15指定。いや、読んでみたら「どこがだよ」と言われそうな気もしますが、そうせずにはいられない位、書くべきかどうか迷ったんです。
 なにせ、主人公が自殺癖のある女の子―――それを紐解いていくと、見え隠れするのは、半分だけとはいえ実の兄との恋愛。おいおいおい、大丈夫か、絶対妄想が膨らんじゃう人いるよ、と不安になってきて、一時は「設定変えようかなあ」と思った程です。
 (実際、ちょっと変えました。多恵子はもっと、理由もなく死のことばかり考える奴でした、最初は。でも、あまりにも安易に死を考えすぎるので、あえて死と生の狭間を行き来するようなムードに変えました)
 大人ならば、これもひとつのお話、となりますが、自分自身が「太宰治は読むな!」と親にきつく言いつけられた少女時代を過ごした、ちょっと危ない傾向のある子供だったので、やはり10代はまずいなぁ、と。
 で、泣く泣く、R15指定。
 絶対、読者、減りました。なにせ宣伝文に「自殺」なんて入ってるんだもん…それだけで、見るのやめちゃいますよねぇ(汗)

 さて、そろそろ、中身について。

 この話で伝えたかったことは、「生きる」ということの意味。死を描くことで、少しはその意味がわかるだろうか、と、自らに問いかけながらの執筆でした。
 心臓が動いている。呼吸をしている。毎日目を覚まし、食事をとり、学校へ会社へ行き、与えられた仕事をこなして、夜眠りに就く―――それは確かに、生物学的に見れば「生きてる」ということです。
 でも、多恵子も瑞樹も、ずっと考えていたのは、真の意味での「生きる」ということ。
 人を愛し、慈しみ、感謝し―――時には逆に、憎み、恨み、怒りを覚え、そうやって日々、人間らしい感情を覚えながら、「生きている実感」を覚えながら過ごすこと。誰もがやってるようで、どれだけやれているか分からないことかもしれません。
 多恵子は、その一端を確かに実践できていたし、瑞樹はそれを羨ましいと思いながらもできずにいる―――つまり、瑞樹が「生きる」ことを考え始めたきっかけが、実は多恵子の死だったりする訳です(で、「Step Beat」に繋がるんですね)。  

 主人公が自殺志願者であるからには、当然、死ぬシーンがある訳ですが、それに至る過程を描くのは、結構大変でした。
 結城は、基本的に、ハッピーエンドしか描かないんです。
 ―――死ぬシーンが、ハッピーエンド…。
 そんなの、あるの?
 なくても、やるしかない。どうすれば、多恵子が笑顔であの世に旅立っていけるのか、うんうん唸りました。
 父親と和解なんかしたら、余計この世に変な未練が残るし、かといって絶望しきったままじゃ「絶望の果てにこの世から逃げ出した」だけになってしまう。久保田と結ばれるという選択肢は、最初からありませんでした。結城の中で、多恵子の相手役は、あくまで陸。地上においては、シンジ。その2人だけだったので。
 いい思いをさせると、この世に未練が残る。けれど、悲しい思いをさせると、解放ではなく逃げになってしまう―――あああ、どーしよー(悩)
 …で、結論が、この結末です。
 とか言いながら、多恵子が久保田と佳那子に自分の未来を託す、という設定は、実は最初からあったんですけどね。悩み悩んだ末に、結局はじめの設定に戻ったら、それが一番自然だったというオチ付(笑)
 それにしても―――陸が海に消えるシーンと、多恵子が雪の降る屋上で陸(の幻影)と語り合うシーン、泣きそうでした。
 もう、登場人物を殺すのはやめよう。
 つくづく、そう思いました。

 さて。「Step Beat」をお読みの方は、「あれ? 久保田と佳那子に、遺言はなかったの?」となりそうなので、1つ補足。
 多恵子は、飛び降りる際、ポケットに久保田と佳那子宛にメモを入れてました。
 「僕に命日は要らない。その代わり、誕生日祝いをやって」
 それに従って、彼ら2人だけは、多恵子の命日ではなく、誕生日である7月5日に墓参りをするようになります。それが、「Step Beat」の「白煙」ですね。「白煙」は、「そら」における第15話の久保田視点ともいえます。よろしければ、一度お読み下さい。
 また、「そら」における終章は、「Step Beat」の「みぞれ」を読んでいただくと、佳那子視点の同じシーンが出てきます。

 最後になりましたが。
 こんなインモラルで暗いお話に、最後まで付き合ってくださった皆様、本当にありがとうございました。

2004.5.19 結城とも


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